【成功例解体】の9人目。今回はThe Futur(クリス・ドゥ)。

デザインの世界で、値付けと売り方をずっと教えてきた人だ。39本ぶんを索引にして読んだ。

いちばん効いた回のタイトルが、これだった。「やらかした」


何をやっている人か(事実だけ)

もともとデザイン会社をやっていた人で、いまは教える側にいる。テーマは値付け、交渉、個人のブランドの作り方。デザイナー向けだが、話しているのは値段の決め方と、断り方なので、業種はあまり関係ない。


自分の教えを、自分が守れていなかった

この回の冒頭が、そのまま結論だった。

何年ものあいだ、私はみんなに「専門特化しろ」「特化した人間ほど報われる」と言ってきた。それなのに私はいま、いろんな人に向けていろんなことをやっていて、道を見失っている。

教えてきた本人が、自分はそれをできていなかったと言っている。

前の記事で、8人分をまとめてこう書いた。信用できると思った人は全員、自分の側の分が悪くなる話を、自分から出していたと。9人目もそうだった。しかも今回は、自分の看板にしてきた主張についてそれをやっている。


何が起きていたか

この人が、絞れていない状態をこう説明していた。

やろうとすることが増えるほど、その全部が重くなる。サイトが複雑になり、売り物が複雑になり、作るものが複雑になり、見ている人が「結局この人は何をしてくれるのか」が分からなくなる。

読んでいて、これは事業の話に見えて事業の話じゃないと思った。増やしたぶんだけ、自分の説明が長くなるという話だ。

そして、増えた状態は自分では気づきにくい。1つずつは全部「やったほうがいいこと」として増えているからだ。減らす理由が、どこにもない。


持ち帰った武器:圧力の話

この回の本体はここだった。物理の比喩で説明していて、これが一番刺さった。

圧力とは、力を面積で割ったものだ。壁を手のひらで押しても壊れない。でも同じ力を、豆粒くらいの面積に集めれば、壁に穴が開く。

そのうえで、こう続けている。

これ以上、力は増やせない。 働ける時間には限りがあるし、それ以上頑張るべきでもない。だから面積のほうを減らす。

これは、俺のところの読者にそのまま効く話だと思った。

「もっと頑張れ」は、もう使えない。 会社員をやりながら何かをやろうとしている時点で、投入できる力はほぼ上限まで来ている。夜と、休みの日しかない。そこに「もっと」を足す余地はない。

残っている変数は、面積のほうだけだ。

やっていることを数えて、減らす。これは根性の話ではなく、割り算の話だった。


具体的な形:5つの「1つ」

この人が採用した形も、そのまま書いてあった。

  • 相手を1つに絞る
  • 売るものを1つに絞る
  • 売り方を1つに絞る
  • 人が来る場所を1つに絞る
  • それを1年続ける

最後の「1年」が本体だと思う。 絞ることより、絞ったまま置いておくことのほうが難しい。1ヶ月で反応がないと、人はもう1つ足す。足すと面積が戻る。

そしてこの人は、こうも言っていた。創作をやっている人の多くは、集中を保つのが難しい体質を抱えている、と。だから仕組みのほうで絞る必要がある、という話の流れだった。

気合で絞るのではなく、絞った状態を先に決めて、動かさない。 ここも、判断を感情の外に置くという、この連載で何度も出てきた形と同じだった。


前提条件(真似できない部分)

この人が最初に1つへ絞ったとき、絞る前から複数の稼ぎ口があった。

会社を始めて2年ほど、依頼が来れば何でも受けていた。その中から1つを選んで残りを捨てている。選べる状態から選んでいる。 何も来ていない状態で「1つに絞る」のとは、まったく別の行為になる。

しかもこの人は、そこも自分で言っていた。「まずは何でも受けて稼いで、次の決断をするための資金を貯めておく」という言い方をしている。貯めてから、絞る。 順番が明確だった。

だから、いま来ているものが1つも無い段階でいきなり絞るのは、この人の言っていることとは違う。まず選択肢を作る。それから捨てる。


俺が持ち帰ったもの

固定費と、まったく同じ話だった。

俺はこのブログで、契約を切る、使っていないものを止める、なんとなく続いているものを潰す、とずっと書いてきた。それは金の話だと思っていた。

でも構造は同じだった。増えたものは、1つずつは全部「あったほうがいいもの」として増えている。 支払いも、やることも、同じ増え方をする。そして増えたぶんだけ、こちらが薄くなる。

削るのは、余裕を作るためじゃなくて、圧力を上げるためだった。

もう1つ持ち帰ったのは、1年のほう。

俺は、反応が無いとすぐ別の形を試したくなる。1ヶ月で判断したくなる。でも足した瞬間に面積が戻って、圧力はまた下がる。 効かなかったのではなく、穴が開く前に手を離していただけかもしれない。

だから期限を先に決めておく。この連載も、1年やる。


9人まとめて分かったこと

ここまでで9人。全員に共通していたのは、手法ではなかった。

自分の側の分が悪くなる話を、自分から出していたこと。 これだけだった。

  • 失敗した企画を、失敗のまま出した人
  • 自分の職業を「信用するな」の側に入れた人
  • 「いまは買っていない」と言った人
  • 成功した習慣の代償を全部書いた人
  • 自分のジャンルの人気商品を最低評価にした人
  • 自分の看板にしてきた主張を、自分が守れていなかったと言った人

逆に言えば、この一点だけを見れば、専門知識がなくても選別できる。 過去をさかのぼって、その人が損をする話が1本もないなら、それは判断ではなく、宣伝を読んでいる可能性がある。

これが、この連載でいちばん持ち帰る価値のあるものだった。


次回

【成功例解体】は続きます。全部見たうえで書ける人からやります。

人気記事(おすすめ)